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ミステリの二重構造と第四者

 ミステリはかならず二重の構造を持つ。1つは隠すべき物語、そして、2つめはその綻びを繕う物語。デテクティヴが追う殺人事件は後者。しかし、べつに殺人でなくても、失踪でも、なんでもかまわない。とにかく不可解な出来事があり、そのハウダニットとフーダニットが問われる。そして、ほんとうのミステリは、そもそもなぜ不可解な事件が起こったのか、ワイダニットの方にある。

 かんたんに言えば、隠されてきた物語があり、それはずっと隠され続けてきたし、今後も未来永劫に隠され消えていくはずだった。ところが、それが予想外の出来事が起きて、表に出てきそうになる。それで、それを隠すために殺人事件が起こる。いや、逆に、この機会に一気に暴き立てるために、かもしれない。前者は先の悪人が悪事を重ねるもの、後者は先の被害者が復讐するものになる。

 つまり、事件は、事件以前に起こっている。こっちこそがほんとうのミステリ。それは、ときには当事者の間では周知の物語かもしれない。それを第三者が善意で、もしくは知らずに開いて、のっぴきならなくなってしまうことで、トラブルに巻き込まれる。これを解決しようとするデテクティヴ(探偵、刑事)は、第四者ということになる。

 読者ないし観客は、この第四者とともに知見を得ていくことになる。しかし、第四者は、表面的なトラブルを解決しようとすることにおいて、同時に始まりの物語の方を暴き立ててしまうことになる。つまり、第三者以上に問題の核心に踏み込んでしまう。ただ好奇心だけで、というのは、人物描写として弱い。ホームズにしても、ルパンにしても、マーロウにしても、金田一にしても、本人自身に別の始まりの物語が透けて見えているからおもしろい。