凸版文久明朝

 明朝体がいちばん難しい。その中でも、おそらくもっともしっくりくる、私に限らず、世間でも、これこれ、というのが、凸版印刷の伝統ある文久明朝というフォントだろう。文春文庫など、凝りすぎていない、むしろ一般的な書籍デザインで、多く見かけるやつだ。特徴は、明朝ながら、筆の伸びを排して、ペン字体や教科書体に近い、きわめて標準的な戦後字体になっていること。一発で見分けるのは、「そ」。そ、の上が、伸びの横棒ではなく、二点二格になっている。

 ようやくモリサワがリリースし、ほかの文久ファミリも順を追ってということだが、逆に言うと、これまでそのほかの明朝がいかに奇妙な明治字体に執着してきたことか。ほとんどの明朝は「や」で切り点になっていない。そもそも、文久を含め、いまだに古い鉛活字のフォントが基準というのは、どうなのだろう? 明治字体は、基本的にすべて縦書きのウェイトで揃えられており、パソコンの横書には合わない。戦後自体の文久は、このあたりに自由さがあるものの、やはり縦書きが基本だ。かといって、平成字体は、知ってのとおり、うーん、というように、品格に欠ける。最近では、横書きを意識して、TP明朝なんていうものもあるが、センスがいかにもアニメっぽい。

 もともと明朝は、縦線を太く、横線を細くしているせいで、これを横に並べると、縦線が流れを遮り、バーコードのように細切れにしてしまう。このような原理的な問題はあるのだが、戦後に文久明朝が作られたときの、そのフォントではなく、その工夫と努力をもういちどするだけの、日本文字の力は残っていないのだろうか。