下弦の月と新酒を味わう

 酒蔵に杉玉の下がる頃、季節もすっかり落ち着き、早くも今年を振り返りつつ、ちびりちびりと楽しむ。どうせ量を飲むわけでなし、ちょっと良い目のものを、まずは常温で。おりしも下弦の月。夜も更け、すっかり風も冬の気配。薄が揺れ、雲が空に陰を落とす。

 街中であくせく働いている人たちには申しわけないが、あんなごみごみしたところ、窓もない、風も感じられないようなビルや地下の店で、むだに高い酒を飲んで、味がわかるのだろうか。どこの銘柄がどうのこうの、と能書きを垂れてみても、芳醇な味は瓶の中に収まるものでもあるまいに。

 孔子あたりは春の夕暮れをめてでいるが、晩秋の夜月もなかなか。火入れしていない生酒は、地元の特権。よその土地のことは知らないが、雪の新年から桜の春、炎天の夏、そして残暑の秋を経て、今年を振り返り、来年に夢思う。地のものをつまみ、一口嘗めては景色を愛でる。pricelessとはこういうものか。