リヒターとバッハ

バッハは、いろいろな版を持っている。が、一回、聞いたきり、というものも。ほかのも、数回で飽きた。結局、もっとも聞いたのは、最初にドイツに行ったときに買ってきたリヒターの全集のレコード。ドイツでもかなりの価格だったが、カバンにめいっぱい詰め込んで持ち帰り、それをテープに落としていた。CDになって、同じものを買い直した。そして、そればっかり。

近年、1970年代の2DFのリヒターの映像がネットで見られる。聞けばすぐにわかるが、これは、聞き覚えのあるレコード盤の演奏に映像をかぶせただけの「口パク」だ。当時の映像収録技術では、同時に取る能力がなかったのだろう。とはいえ、リヒターという人の演奏は、固い。いつ、どこで演奏しても、テンポも、音量も、曲想も、ほとんど揺らがない。それくらい、その曲がいかにあるべきか、考え抜いていたらしい。

もちろん、近年、もっといい録音のCDは、いろいろある。高音から低音まで抜けるようなやつ。だが、演奏が気に入らない。リヒターほどの品格が無い。同じ時代でも、コンプレックスのカタマリのようなカラヤンとは違って、音が純粋に響く。カラヤンは、時代とともに忘れられてしまうだろうが、リヒターのバッハ演奏は、永遠に古典として残るだろう。