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夏八木勲と『白昼の死角』

 夏八木勲の代表作と言えば、まちがいなく『白昼の死角』だ。三島由紀夫つながりで、ちょうどまた見たいと思っていたところ。去年ようやく出たDVDを買おうか、それとも、それだけのために来月に放送するという東映チャンネルに入ろうか、と考えていた。

 しかし、この作品は、不幸だ。出来はとんでもなくすばらしい。日本でこれだけのハードボイルド、ピカレスクロマンが作れるのか、と驚かされる。とはいえ、これは角川映画のシリーズで、横溝正史森村誠一の次にうりだそうとしたもの。しかし、もともと毛色が違いすぎる。山田風太郎なんかに似たヨタ話を得意とする高木彬光の小説の中でも、きっちり実話に取材した、硬派のもの。もちろん、複数のモデルをかませてあるが、あの光クラブとその残党の世代がうまく描き出されている。

 戦争世代と、戦後団塊世代の隙間。三島の凶行も、ある意味で、あの光クラブが原点だ。夏八木もまた、東映任侠ものの前世代に踏み荒らされた後の映画を生きてきた。世代は異なるが、似たような状況だった。まじめさとすごみ、恐れと怒り。それにしても、主人公が悪人というだけで、この映画を干してきた「良識」とは何なのだろう。虚無の悪人の時代があったのはじじつなのに。