ドラキュラとヴァン・ヘルシングの宗教

 ドラキュラは、ルーマニア貴族だから、ルーマニア正教のはず。それが、国教会化で捨てられた旧カトリックのカーファックス修道院跡を買い取ってロンドンにやってくる。対するは、ヴァン・ヘルシング教授。セワード博士の精神病院に呼ばれてきたアムステルダム大学の老精神科学者。となると、ユダヤ人の可能性が高い。すくなくとも改宗カルヴァン派のはず。ところが、カトリック、ということになっている。かなり奇妙だ。

 ブラム・ストーカー本人は、カトリックが多いアイルランド生まれながら、イングランド側の役人の子。トリニティカレッジ出で、まちがいなく国教会信徒。(あそこは国教会信徒しか入れない。)一方、ドラキュラのモデルは、彼がマネージャーを勤めていたライシアム劇場劇団(いまもミュージカルで有名)の看板役者ヘンリー・アーヴィング。もともと労働者階級の出身ながら、メイソン197ロッジを足がかりに、1895年にナイトの称号を得た。しかし、コンプレックスに凝り固まって傲慢きわまりなく、大学出のストーカーを深夜にたびたび呼び出して、いびり抜いた。それで、1897年に、ストーカーは『ドラキュラ』を当てつけで書く。

 ドラキュラの背後には、成り上がりのよそ者に対する強い嫌悪感がある。それがロンドンの血を汚す。ただ、それを退治するのも、外国人。つまり、さらに根底にあるのは、ロンドンがカトリックというヨーロッパの支柱を捨てて、世界の中心と成り上がっていく世紀末の不安だ。