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『春の祭典」スキャンダルから百年

いまから百年前の5月29日、パリのシャンゼリゼ劇場で、ロシア・バレイ団、ストラヴィンスキー作曲、ニジンスキー振付の『春の祭典』が初演された。その学術的な考証に基づく再現映画があるが、これじゃ、観客が大騒ぎしただろう。変拍子や連符だらけのうえに、楽器のむちゃな音域を使っているから、実際はまともに演奏できたかどうかさえわからない。ニジンスキーは、ダンサーとして著名ながら、振付は初めて、短気の癇癪持ち。おまけに、主役のバレリーナが妊娠して、代役を立てた。

その振付からして、首を曲げ、腰を曲げ、ぴょんぴょん、くるくると舞台を回るばかりで、舞台の上をごろごろ転がったりさえする。およそバレエっぽくない、むしろその後の暗黒舞踏なんかのさきがけみたいな感じ。衣装も、インディアンなんだか、ポリネシアンなんだか、白塗り顔に色つきの入れ墨をしているし。(『もののけ姫』は、この『春の祭典』の初演演出からデザインを採ってきている。)

じゃあ、つまらないのか、というと、とんでもない。いまの映画音楽でストラヴィンスキーの影響を受けていない作曲家などいない。振付も、バレエ、というからムリがあるんで、モダンダンスとしては、音のアクセントを動きに取り込むのなんて、いまじゃ常識だ。ベートーヴェンの『大フーガ』なんかと同様、時代を先取りしすぎて、作品の見せ方がこなれていなかったための悲劇で、方向性は間違ってはいなかった。