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幻想文学とミステリ

 今日からミステリ論は、江戸川乱歩。それも、『陰獣』だ。田舎ホテルのチェーンソーぼんぼんや人肉喰いのレクター博士なんかより、天才的猟奇ミステリ作家にしてエロ狂いでストーカーの連続殺人鬼、静子の方が、サイコ犯としてよほど怖い。げびた腐女子ミザリーとは違って、世間的には清楚で上品ということになっているだけに、始末が悪い。その正体を知ってしまった者は、彼女の側にずるずると引きずり込まれる。

 そもそも本格があって、変格が出てきたのではない。歴史的には、『ヨハネの黙示録』など、変格の幻想文学の方がずっと歴史的に古い。ところが、ポーの『モルグ街の殺人』で、わけのわからない事件を合理的に説明してしまう、というスタイルが登場し、この鬼子が母屋を乗っ取ってしまった。ポーだって、『アッシャー家』なんかは、変格だ。日本では、近松門左衛門上田秋成泉鏡花あたりから、乱歩を経て、稲垣足穂澁澤龍彦種村季弘、そして、鈴木光司京極夏彦宮部みゆき、などにもつながる。先に挙げたスティーブン・キングなどは、いまでも古いミステリ、幻想小説の伝統を守っている。

 とはいえ、現代に至って、幻想の余地は、どうも狭まっている。話がちまい。すぐ念力になる。へたに念力だなどと物理学的に妙な説明などしなくてもいいのに。むしろ、この世の謎は、人間の心の中にこそ、潜んでいるのに。