ハードボイルデットの眠り

 『ビッグ・スリープ』は、ハンフリー・ボガードの映画『三つ数えろ』で知られる。ところが、ネットで検索すると、あらすじがおかしいものが多い。映画を見ずに、どこかからコピーしたのだろう。ハリウッド映画は、恋愛を筋とする。くわえて、この映画の当時は、検閲がうるさかった。このため、原作の小説と映画では、重要なところが異なっている。

 たとえば、古書店主が妹カルメンのポルノ写真を売りさばいていた件。映画ではチャイナドレスを着ていて、なんでブラックメールのネタになるのか、さっぱりわからない。そのうえ、姉ヴィヴィアンと前任事件屋リーガンの関係。原作ではヴィヴィアンの三人目の夫だが、映画では、マーロウとの新たな関係のために、ヴィヴィアンは出戻りで、不倫にならないように修正されている。

 そして、もっとも肝心なところ。スターンウッド将軍の依頼。将軍本人は、姉婿のリーガンがはすっぱな小娘のヴィヴィアンにあっけなく殺されてしまったことも知ったかのようだ。彼が探していたのは、蘭の腐臭に満ちた時代の中でも節を曲げずに戦う「男」。マーロウは、この事件を通じて、彼自身が「男」であるかどうか、試される。映画でも、決戦で、銃に込める弾を落とすシーンが象徴的だ。もっとも80年代になると、おびえもしないウォシャウスキーのような、女のハードボイルデットが登場するのだが。