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ハードボイルドのプロット構造

 『ビッグスリープ』がもともと短編の寄せ集めからできているように、ハードボイルドでは、フーダニットがどうこう、などという単純な構造を採ってはいない。それどころか、事件が事件を起こし、謎が謎を呼ぶ。まさに都会の冒険と呼ぶにふさわしい。庶民の世界、人間の心は、未開のジャングルで、そこでは雌豹や毒蛇が主人公に襲いかかってくる。

 だが、ハードボイルドもミステリであるのは、それが解けるから。ばらばらに見えた事件が、きちんと1つの事件になり、関わった人々の動きがすっきりとわかるようになる。とはいえ、もともと立体パズルのようなものだから、本格ミステリのように、探偵がその1つの事件そのものを時系列で言葉で語って説明することなどできない。だから、最後まで読み終わっても、話のわからないやつには、わからない。

 『ビッグスリープ』の場合、すべては、リーガンに行き着く。彼は、アイルランド独立闘争のために、一時的にLAに亡命してきており、老人の支援を受けていた。ところが、この偉大な期待の英雄は、つまらぬいきさつでどうでもいい小娘たちに潰され殺され、代わって小悪党たちが跋扈。探偵は、けして追いつけない影を追って、かえって老人の夢も破ってしまった。英雄の死んだ時代、という大きなテーマが自分で見通せないと、おもしろさもわかるまい。