人生に勝ち負けを言うやつは、すでに負け


/カネや地位、名声は、あるにこしたことはないようだが、あればあったで、それだけの面倒が伴う。いったん勝負に出れば、負けてもゲームを降りることはできない。それなら、最初から地道に働いて生きるのが一番だと思う。/



 ドイツには、城を持っている一家がいたりする。だが、昔からのホンモノの貴族とは限らない。成金の祖父が借金のカタに没落貴族から奪い取ったなどというニセ名家も多い。しかし、いずれにせよ、およそうらやましいとは思えない。なにしろ維持費がものすごいのだ。ただでさえ、ぼろい。ほっておくと、すぐに石が崩れる。山の上にあって、道も悪い。麓から電気や水道を引くこともできない。壁ばかりが厚く、部屋は狭くて、暗くて、寒い。エレベーターなど論外で、上まで細い回り階段しかない。レストランやホテルでかろうじて稼いでいるが、稼いだだけ、すべて出て行く。売ろうと思っても、いまどき買い手などつかない。まるで未来永劫に鎖で牢獄に縛り付けられた囚人一族。

 マイケル・ジャクソンの若い頃の歌に、『おまえは勝てない』というのがある。おまえは勝てない、引き分けもムリ、ゲームを降りるのもダメ。芸能人や政治家、経営者というと、外目には派手に立ち回っているように見えるが、内情はみなこんな感じ。次から次に、新しいやつが出てきて、その地位を脅かす。入るカネはあっても、立場相応に、出るカネも大きい。高い木の上のアホネコと同じ。上へ、上へと登るのはいいが、枝は細くなる一方。だが、いったん登ってしまうと、自分で降りることもできず、それにしがみついているのが精一杯。ちょっと風が吹けば、どこへ飛んで消えるやら。

 テレビの中では大きな口をたたいていても、番組の始まる直前まで、顔面蒼白、自信喪失。それをプロデューサーが赤ん坊のようになだめすかしているタレントなんて、ざらにいる。控室で食パンを何斤もバカ食いしてゲーゲー吐いているとか、台本も読まずに自分の前髪のドライヤーのかけ方で、毎日、美粧さんとケンカしているとか、躁鬱の振幅がひどくて奇声を上げながらどこかに逃亡してしまったとか、その多くがXXと紙一重だ。

 政治家はカネに汚い、などというイメージがまとわりついているものの、それは昔の話。田舎で代々、世襲でやっていれば、本業の方で余裕もあろうが、ふつうの議員の生活の実情はかなり悲惨だ。数千万の年収があったところで、それで事務所を借り、私設秘書を雇うのだから、個人の可処分所得は零細企業の従業員と大差ない。それも、数年に一度、失業の危機に襲われ、選挙で莫大な支出を強いられる。そして、たとえ落選して無収入になっても、事務所の経費と秘書の給与は、なんとか自弁しなければならない。あれでは、儲け話にふらふらとついて行ってしまう気の迷いもわからぬでもない。

 大金持ちの実業家と結婚したら、家も車もすべて抵当に入っていた、とか、絶世の美女とつきあったら、とんでもないわがまま娘だった、とか。組織のトップまで出世した人が退職間際に獄に引かれたり、体力と元気が自慢の人が事故や病気で急死したり。ストーカーやパパラッチ、わけのわからないセールス、いいがかりのような裁判、果ては、子供を掠われて殺された、などという事件もある。カネでも、地位でも、名声でも、あるにこしたことはないようだが、あればあっただけの面倒が伴う。妙な言い方だが、それを得る才能より、それに伴う面倒を始末し続けられる才能の方がマレかもしれない。

 まともな家庭なら、子供を芸能界に進ませたりはすまい。父親が選挙に出るなどと言い出したら、家族みんなで止めるだろう。脱サラして経営者になるというのも、同じ。世の中、なにが起こるかわかったものではない。「勝ち」など、物事の一面だけの話。長い目で見れば、へたに勝負に出たりせず、地道に働いて生きるのが一番だと思う。