現場が思うほど上はアホではないかもしれぬ

 /上は現場をわかっていない、と言う。だが、本当か。合理的な判断が食い違うとき、上が重大な問題を隠している可能性の方が高い。現場で生き残るには、それを逆に察知して備えておくことが不可欠だ。/



 不景気で会社が傾き、現場も思うようにならなくなってくると、同僚たちが集まって出てくる話は、毎度、会社の上層部に対する愚痴ばかり。あんな方針、まったくムチャだよ。せっかくの起死回生策なのに、認めないなんて、会社の自殺行為だ、云々。あなたたちが充分に賢明であるとして、上層部が同じ結論に達しない場合、もっとも素朴な推測はたしかに、上層部はアホだ、というものだ。しかし、それが唯一の推論ではない。逆に、自分たちの方がアホで、上層部の方が賢明だ、ということも、大いにありうる。

 そもそも、結論が異なるからといって、どちらかがアホでなければならないわけではない。双方ともに賢明ながら、異なる結論に至ることはありうる。第一は、情報の不完全性。上層部は、現場ほど現場の状況を直接に知っているわけではない。このため、判断のための考慮要素や危機感が欠けていることがありうる。しかし、これもまた、上層部の方が、その現場に関し、現場も知らないような別のことを知り、危機感を持っていることもありうる。たとえば、近隣にライヴァルチェーンが大型店舗の出店を模索している、など。

 それ以上にありうるのは、合理性の判断水準の違い。現場は、短期(一年未満)、それどころか今期の局所局地的な話に終始している。しかし、上層部は、全社の長期(十年以上)に準拠する。特定の部所の一時の得失よりも、全社での、それも百年戦略を考えている。いわゆる深慮遠謀。ここでは、損して得取れ、というようなことも、当然にしばしば起こりうる。また、この問題は、とくに経営資源配分とも関わる。やった方がよいことは多くとも、費用対効果において、優先順位が決まってくる。場合によっては、効果の薄い部所から予算や人材を引きはがし、効果のある部所に再投入することもありうる。それも、ここでの効果というのは、上述のように、全社戦略の観点から測られるものであり、個別現場からは計り知れない。

 単純に好みの違いということもないではない。一般に現場は、威勢のよく、ハイリスク・ハイリターンで一発逆転を狙いたがる。万が一、失敗しても、最後には会社がなんとかしてくれるだろう、という甘えがあるからだ。だが、経営不振で、上層部にそれだけの余裕がない場合、現状維持が最大目標となり、どの現場に対してもロウリスク・ロウリターンの手を打つことを求めるようになるだろう。

 なんにしても、現場の下っ端は上の言うことに黙って従ってればいいのだ、などという話ではない。現場から見ての合理性と、上層部の判断が食い違うとき、上がアホだ、と簡単に決めつけて済ますのではなく、他の部所からも情報を集め、違う判断に至った合理的な原因を逆にあぶり出すことが大切だ。たとえば、当然のはずのプロジェクトに予算がつかない理由としては、会社に不正粉飾決算やデリヴァティヴ負債などの隠れた危機的問題があり、上層部はその始末に追われている。もしくは、社運を賭けた別の巨大プロジェクトが秘かに進められており、既存のものと重複している。さらには、全社的リストラクチャリングで、当該プロジェクトの母体部所そのものの廃止が予定されている。

 社内にも、建前と本音がある。全社的で重大な物事ほど、上層部は、外部にはもちろん、内部にも明かすことはない。しかし、それは、いずれ現場にも津波のような影響を与える。むしろ上層部も合理的であるとの前提で、上層部が隠しているものを逆に察知し、それに早く備えて動いておくことこそ、身を守るためには不可欠だ。