あんたが嫌いだ

/話の中身がなんであれ、あんたとだけは仕事をしたくない、ということがある。相性が合わない、話しぶりが嫌いだ、とにかく雰囲気が気に入らない、等々。しかし、我々は、これらで話の信用度を測っている。/


 ビジネスなんだから、相性だの、好き嫌いだのではなく、話の中身で決めてくれ、と思うかもしれない。だが、どうにも生理的に嫌なものは嫌、話の中身がどうあれ、あんたとだけはいっしょに仕事をしたくない、ということは、世に多くある。

 相性ということで言えば、価値観が合わない、というのが、すれ違いの大きな理由だろう。たとえば、こっちは性能を気にしているのに、延々と、価格的にお得だ、とセールスをする人。また、有名人のMMさんも使っている、が、ウリの殺し文句だと思っている人。こちらが、その有名人とやらを知らないなどとは、想像だにしないのだろう。しかし、これらは、相性よりも、聞き手のシグナルを読む能力に欠けていることの方が問題だ。

 価値観以前に、話しぶりが嫌だ、ということもある。とにかく早口だとか、表現が大げさだとか、逆に、無口に無表情で会話にならないとか。俗語が多い、なれなれしいのが嫌い、ということもあるし、丁寧語がかえって慇懃無礼、冷たくバカにしている、と、とられることもある。相手の方に、それぞれ勝手に期待している話しぶりがあり、それに合わないと嫌われる。だが、この期待というのがあまりに人によって千差万別なので、容易には合わせ難い。とはいえ、ツバを飛ばす、息がくさい、発酵タバコだの、ニラレバギョウザだののにおいが服に染みついている、片口だけ曲げて冷笑する。ときどき、チッとか、舌打ちをする。やたら鼻息が荒い。奇妙な大声で唐突に笑う。こういう話しぶりを歓迎する人は、まず世の中にいない。

 さらには、話しぶりよりなりより、すでに雰囲気が嫌いだ、ということもある。いるだけで、なんだか暑苦しいとか、どよんと陰気になるとか。片方の小指の爪を異様に長く伸ばしていて、ときどき耳をほじっていたりすると、だれも、もう絶対に握手なんかしたくもあるまいし、名刺さえも受け取りたくないだろう。どう見ても場違いなほど、おしゃれなのもどうか、と思う。かといって、ジャージにサンダル履きのように、そのかっこうで来たのか、というほど普段着っぽいのも、なめられている気がする。

 よく言われるのは、相手の服装や口調に合わせろ、ということ。公務員に会うなら、公務員っぽいかっこうで、公務員っぽい話しぶりで。農家の人のところに行くなら、いつでもいっしょに農作業をする覚悟で。地方の政治家など、そのために、車の中にワイシャツを何枚も持ち、長靴さえも積んでいる。業界人を相手にしながら、業界人らしいノリで応対できないと、こいつ、よそもんだな、この業界では役に立たないな、と、安く踏まれてしまう。だからといって、ムリに業界ノリをすれば、それこそ馬脚が出てしまう。

 結局のところ、我々は、雰囲気や服装、口調で、相手がどの程度のものか、まさに値踏みをしているのだ。たとえまったく同じ話であっても、それを持ってきた相手次第で、その話の信用度合いが変ってくる。だから、雰囲気や服装、口調が嫌い、となったら、信用度合いがゼロなのだから、話の中身がなんであれ、それはゼロでしかない。

 むろん、人は見かけではない。そして、仕事は話の中身ですることだ。しかし、経験則として、見かけさえも人に合わせる気もないような相手では、どんな話であれ、うまくは運ばない、こっちの負担ばかりが大きくなって、結局、難破する。まして、交渉ごとで、最初から主導権争いをしかけてくるような相手は、長期的な提携はまず無理。人間の直観的な感性の方が、理屈よりはるかに合理的で正確だったりするものだ。