早朝の別世界

東京のことならよく知っている。と、思うのは、思い上がりだ。同じ街でも、夜明け前には、まったく別の世界が広がっている。

それは、昨日の名残りの深夜とは違う。満天の星空の下、多くの人々が明日に向けて働き始めている。あちこちの工事のさなか、早朝の仕事のために、徒歩で、自転車で、また迎えの黒塗ハイヤーで、だれもが出勤に急ぐ。カラスたちが路上を歩いて、ゴミをひっぱって遊んでいる。電車もそうだ。昼間は人で埋まる車内も、朝は車両全体が見渡せる。各駅ごとに乗る人が決まっており、それぞれの席も決まっている。どこのだれだか知らないが、たがいに会釈する。

もうあの街には、しばらく行っていない。だいいち、何十年も前の話だ。駅は大きく改装され、周辺にもマンションが増えた。コンビニや自動販売機の明かりが当然になった。でも、夜明けに色づく星空の街のことは、いまも忘れない。