マーロウとラテン語

フィリップ・マーロウと言えば、レイモンド・チャンドラーの通俗ミステリーに登場する探偵だ。ハードボイルドの代表とされる。あの文体は、なぜ一人称なのか。いや、それよりも、こういうタイトな一人称文体は、以前、どこかで見たことがある、と、ずっと気になっていた。

マーロウには、多くの名台詞がある。彼は、それを「古いフランス人の言葉」と言う。しかし、それは、ロマン語ないしラテン語だ。ローマ人は、アテネ人同様、弁論は重んじたが、スパルタ人同様、饒舌を嫌った。そして、ローマ人の演説や日記は、まさに一人称に満ちている。ムダのない、まさにハードボイルドな文体だ。

チャンドラーは米国人だが、英国のパブリックスクールを出ている。そこで、ラテン語とともにスパルタンな男の威厳をしっかりと教え込まれた。The more you reason the less you create と、マーロウは言う。しかし、彼の魅力的な創作は、強固な古典の教養によってこそ支えられていたのだ。