左利き用のヴァイオリン

 オリンピックは大好きだ。開会式が。ルネッサンスのころ、ブルゴーニュ公国などで祝祭政治が行われたことが知られているが、あんな感じだったのだろう。

 で、今回、何に驚いたって、ヴァイオリンを逆手持ちしているやつがいたことだ。最初は、演奏しているのが役者で、持ち方を間違えているのか、と思ったが、そんなことは絶対に間違えない。アゴ当てがあるからだ。それどころか、わざわざ逆手用のアゴ当てを特注しているということは、ヴァイオリンそのものも左利き用になっている、ということだ。

 ビートルズのポールが左利きで、ギターを逆手弾きしていたことはよく知られているが、ギターとヴァイオリンでは、わけが違う。ギターはナットとサドルの弦高と弦幅さえ変えれば、弦を上下逆張りすればいいだけだ。ところが、ヴァイオリンは、見た目はともかく、内部構造に問題がある。低音のG弦側にバスバーが、高音のE弦側に魂柱が入っている。だから、弦を逆張りしても、ヴァイオリンとしては鳴らない。

 もちろんヴァイオリンなんて、全部のパーツがニカワで軽くくっついているだけだから、ばらして開けて、バスバーからなにから張り直すこともできる。そもそもバスバーも、長い目で見れば消耗品だから、逆側に貼ることもできるだろう。しかし、弦の強度を反転させたとき、ヴァイオリン全体になにが起こるか、わかったものではない。

 で、調べてみると、じつは昔から左利き用のヴァイオリンというものが存在していたのだ。オーケストラの中で逆弾きはじゃまになるから、クラシックには存在しなかっただけで、ソロだったら、べつに逆弾きだろうとなんだろうと、問題はない。そして、実際、ソロ用にずっと存在してきた。私が見たことがなかっただけだ。

 とはいえ、左利き用のヴァイオリンは弾きやすいのだろうか。右利きの人間は、左利きは右利きの反対だと思っているらしいが、実際は、そうではない。左利きの人間は、右利きの道具を左手で使うことに生まれながらに慣れさせられている。たとえば、ハサミなんか、左利き用のハサミより、右利き用のハサミを左手で使った方がうまく切れる。左利き用のハサミを左利きの人間が左手で使っても、かえってうまくいかない。

 つまり、左利きの人間の多くは、左手で右利きの右手と同じ結果を出す腕の動かし方を体得している。同様に、右手も、右利きではないにせよ、右利き並みになんとかできる。それどころか、ヴァイオリンなどの場合、左利きの方が、指板の加減(運指やビブラート)は、ずっと得意なのだ。まあ、左利き用のヴァイオリンもあって困ることはないが、これまで同様、無くて困ることもない、というのがオチ。


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