物書きのための文体論5

 小説などの物語においては、こういう混乱や矛盾を抱えている人物が、すくなくとも主人公と敵役の二人、さらには狂言回しまで含めて、三人はいなくてはならない。これらの人物の抱えている混乱と矛盾は、それぞれにまったく異なるものだ。そして、それゆえに、ときに波長が合い、ときに波長がずれ、物語が読者の予想外の方向へ展開していく。

 しかし、作者において、物語の展開は予想外であってはならない。三人もの人格の混乱と矛盾がどこでどうかみあい、ずれるのか、それぞれの波長を自分自身の中で同時進行させて、それぞれの人格においてはその混乱が首尾一貫しているように描いていかなければならない。

 連載小説だとムリだが、書き下ろしなら、特定の人物の場面、その行動や発言だけチェックしてみればよい。映画の編集のような方法だ。会話シーンというと、たがいのやりとりの巧妙さに気をとられがちだが、巧妙なやりとりは、むしろ主旨の取り違えや意図的なずらしによってこそ生まれる。重要なのは、それぞれの人物が、相手の意向に左右されない、ということ。会話のように見えて、じつは、言いたいことを言っているだけ、ということ。しかし、それこそが、現実の会話であり、そのことが、個々の発言のエッジを際だたせ、巧妙な会話シーンを作り上げる。