ハードボイルドとオフビート2

 ハードボイルドも、そのハードさは、オフビートによってできている。もちろん小津のオフビートと、ヘミングウェイのオフビートは種類が違う。それは、同じオフビートでもジャズとスカが異なるのと同じことだ。しかし、重要なのは、そこで読者が先駆的に予測する一般的なリアクションをことごとく外していくことによって生まれるオフビート感であり、そのことは両者に共通している。

 よくハードボイルドはストイックだと言われるが、ほんとうにそうなのか。たしかに、女の方から寄ってくると、冷たくあしらったりするが、フィリップ・マーロウだって、出てくるすべての女にちょっかいを出しているし、マイク・ハマーなんか、やりたい放題だ。人に聞かれりゃ、ほっといてくれ、オレにかまうな、とか言って答えないが、そのくせ、聞かれてもいないことを読者にはベラベラとしゃべりまくる。こんなの、ぜんぜんストイックじゃないだろ。ようするに、つねに人の期待を外しているだけだ。

 また、ハードボイルドというと、荒っぽい俗語調の言葉遣いというイメージがあるが、実際は、昨日挙げた例のごとく、その会話は、極めて知的なウィットとレトリックに満ちている。バカじゃ、聞き込みが勝負のプライベート・デックなんかやってられない。にもかかわらず、この知性が和製ハードボイルドには欠けている。ただの暴力バカばっか。伊達や真田なんか、絵に描いたような、外づらだけのエセインテリだし。

 むしろ見てくれは粗野でも、しゃべくりが光ってこその隠れた知性じゃないの。でも、それには、作家にそれだけの知性がないとねぇ。ハードボイルドのオプは、マーロウが典型であるように、むしろ超エリートの優男のくせに、人生のすべてにおいて偽悪的なドレスダウンをしているオフビートが魅力なんで、暴力男がおとなしいサラリーマンのフリをしている、などというのは、オーディナリーな反社会的性格者の、よくあるオンビートのパターンにすぎない。

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