本格ミステリの定義(決定版!)3

 じつは、「デテクション(謎解き)」というジャンルは、ある秘密結社で、そのルールが決められた。1928年のことだ。ドロシー・セイヤーズアガサ・クリスティも会員だった。

 とにかく英国人は秘密結社が大好きだ。古いところでは、清教徒革命後の混乱期の科学研究仲間の「ロイヤル・ソサエティ」とか、廃墟趣味の「ヘルファイア(地獄の業火)クラブ」なんていうのもある。そういう変わった趣味は、一般庶民には理解されえない、それどころか誤解されて非難の的になるので、仲間内だけで密かに楽しもう、というわけだ。まして、どうやって殺そうか、どうやって犯行を隠そうか、などという話も、物騒で悪趣味もいいところなので、大学教授とか、国教会牧師とか、資産家マダムとかが集まって、文芸サークルとして、ミステリの秘密結社を作った。それが、「デテクション・クラブ」だ。

 なんだ、文系サークルか、そんなの秘密結社でもなんでもない、と言うなかれ。これの入会儀式で、我々の言う本格ミステリの定義が定められたのだ。その入会の宣誓(Oath)は以下のとおり。

「N.M.よ、当デテクション・クラブの会員となることこそが、汝が堅き切望たるや?」

「それこそが我が切望です。」

「汝は、天の啓示や女の直感、マンボ・ジャンボ(迷信や妄信)、ジガリー・ポーカリー(はぐらかしやちょろまかし)、偶然、神の行いを当てにしたり、用いたりすることなく、汝が探偵らに与えることが汝を喜ばせるであろうところの機知を用いて、汝が探偵らに提起せられた犯罪を、汝が探偵らにうまく真に解かしめんことを約するや?」

「約します。」

「汝は、生きのいい手がかりを読者から隠したりせざることを厳粛に誓うや?」

「誓います。」

「汝は、国王の英語を尊重せんか?」

「尊重していきます。」

「N.M.よ、売り上げが伸びんことを汝が望むがごとく、汝が当クラブの会員たる限りにおいて、汝がなしたるこれらすべての約束を忠実に守ることを誓うか?」

「このすべてを厳粛に誓わせていただきます。さらに私は、たとえ酔っぱらったりしたとしても、会員のだれかが出版する前に私に伝えた筋書も秘密もパクったり、バラしたりすることなく、当クラブへの忠誠を約束し、保証します。」

「この申し出に異議ある会員のあらば、彼にそれを告げよ。」

「……」

「汝ら、我らがクラブの会員として、N.M.を喝采すや?」

御触役のかけ声とともに、一同、息の続く限りの歓声。

「N.M.よ、汝はデテクション・クラブの会員に正式選ばれたり。しかるに、もし汝、我らが約定を守り損なわば、他の作家は汝の筋書を先取りし、汝の出版社は汝の契約をもって汝を辱め、見ず知らずの者が汝を名誉毀損で訴え、汝がページにはミスプリントがのたくりまわり、汝が売上げはどこまでも減るであろう。アーメン」

一同「アーメン」


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