著作権・翻訳権・出版権3

 この問題に関わっていると、日本の書籍流通の特異性が見えてくる。あくまで一般論だが、その核心には、日本の書籍流通におけるエイジェント(代理人)というものの奇妙さがあるように思う。

 書籍において、理論的には、3つのエイジェントが関わる余地がある。すなわち、第一が著者のエイジェント、第二が編集者のエイジェント、第三が出版者のエイジェント。

 欧米では当然の著者エイジェントが、日本には存在しない。近年、著者エイジェントを名乗る元編集者の事務所がいくつかあるが、ホームページを見ると、著者から金を取って原稿を批評していたりする。バカ言え。それじゃ、自費出版よりひどい詐欺商売だ。著者のエイジェントなら、著者の代わりに、どんなひどいクズ原稿でも、それを高く買ってくれる出版社を見つけてくるのが仕事だろう。イスに座って仕事するのは、著者だけ。エイジェントは、著者の代わりに営業の外回りするのが当然だ。そして、出版社側で原稿をほしがっている企画があったら、適当な著者に戻して、すぐ書かせる。そうでなければ、エイジェントとしての、マージン商売などできるわけがない。

 編集者のエイジェントは、版権を売るもの。海外の出版社が日本にエイジェントを置くことが多いが、専属ではないと、取引バルクを増やすことが優先される。このため、日本の出版社ごとに置かれている社内窓口の担当者が、抱き合わせで買ってくれる日本側の出版社の方と懇意になってしまって、どっちサイドのエイジェントだかわからないような悪い条件でも契約に応じてしまう。ロイヤーだったら考えられないような誠実義務違反だ。

 そして、言うまでもなく、悪名高き日本の流通エイジェント。海外であれば、出版社がダイレクトに書店に先行予約を取って、絶対的な出版点数を読んでから刷る。印刷部数は多くはないが、刷っただけ、確実に読者にまで届く。小部数でも、良書なら、出版が成り立つ。一方、日本は、この出版不況の中、とりあえず流通エイジェントに大量に新刊を渡して、金に換えることしか考えていられない。だから、後で大量の返本をくらうことになる。しかし、いずれにせよ、小部数の本なんか、売れる売れない以前に、金融的に意味がない。

 さらにまた、版権エイジェント会社内の日本出版社担当者の逆エイジェント化と並んで、近年、編集者の出版社内での逆エイジェント化も目立つ。それぞれの編集者が個人的に懇意の著者や翻訳者、デザイナーを抱え込んで私兵化し、それ以外の企画を叩きつぶす。売れても売れなくても、お抱え連中の関わる企画だけを社内でごり押しする。この背景には、怪しげな資金プールやキックバックが絡む場合もある。ひどいのになると、編集者自身が自分で原稿を書いてしまって、名義借りのライターのところにその原稿料を自分で振り込み、金を自分に戻させる、なんていう話も聞いたことがある。

 もっとも、こういう取引先への逆エイジェント化は、政府のお役人さんたちやテレビ局のプロデューサーさんたちの間でもよく見かける日本の日常風景だ。仕事そのものが利権化してしまって、良い本を読者に、なんて話は、二の次、三の次。それより、オレさまたちの、仁義なきショバの分捕り合い。オレさまに逆らって、この業界に残れると思うなよ、というような陰々滅々のパワハラ恫喝も日常茶飯事。って、内情に詳しい人から聞いたんだけどさ。まるでヤのつく商売の方々みたいだなぁ。あー、こわい、こわい。


純丘曜彰ブログ速報版はこちら:http://sumioka.justblog.jp/blog/