クリキンとオペラクリーム

 読む側からすればどうでもいいのかも知れないが、出版社や書店にとって紙質は、価格や送料、配置にかかわる重大な問題だ。

 戦国時代(十六世紀末)、伊予(愛媛)に兵頭太郎右衛門という武士がいたが、主家滅亡のため、隠居して仏門に入り、泉貨居士と名乗り、経文修復から「泉貨紙(せんかし)」を作った。これは、もともと、破れ経文に裏紙を貼ったことから、それなら最初から破れにくいように裏紙を貼ってしまえ、ということで、二枚を貼り重ねてあるもの。それまでの美濃紙などでは、繊維が細かければ細かな字も書けるが、紙としては弱く、また、繊維が粗ければ紙としては強いが、細かな字は書けない、という矛盾を抱えていた。これに対し、泉貨紙は、目の細かい表紙と粗い裏紙を合わせることにより、繊細さと強靱さを兼ね備えるようにし、経文だけでなく、帳簿など、細かな字が書け、かつ、保存がきくようにしたことに大きな特徴がある。

 まぎらわしいことに、戦中戦後の物資不足の折り、廃紙や裁断クズなどのカスをとり集めて再生カストリ紙が作られ、これもまた仙花紙(せんかし)と呼ばれ、通俗雑誌に用いられた。しかし、これは、和紙の泉貨紙とはまったく別のものだ。その後、再生品位は悪化する一方で、マンガ雑誌などでは適当に色をつけてインク色とのコントラストをかろじて保っている。(白度の低い灰色の紙に黒インクよりは、色地に黒インクの方が、まだ読みやすい。)

 一方、書籍となると、圧倒的な人気を誇っているのが、北越製紙のクリキン、淡クリームキンマリ。もともとは「金毬」と言う。金菱、金藤などと並んで、製紙業界は金が好きらしい。そうそう、サテキンは、王子製紙、サテン金藤(きんふじ)の略。カードその他に用いられる高級ダルマットのアート紙。グロス・マット・ダルというのは、75度光源での白紙光沢度で決まるが、ダルの方が文字は読みやすく、また、印刷光沢度が高く、写真に立体感が出るので、効果的。

 一般に、紙は、千枚で「連」と言い、四六版千枚の重さ、「連量」で繊維密度がわかる。しかし、連量は必ずしも紙厚とは比例していない。クリキンの場合、標準の90kgだと0.13mm。つまり、208頁だと、本体束で13.5mmになり、本体表紙の背幅は14mm、カバーの背幅は15mmで作ることになる。やたら細かな計算をしても、どうせ糊付け裁ち切りをするから、意味がない。

 で、いま仕上げにとりかかっている本だが、688頁ある。クリキンの標準だと、本体背幅45mmになってしまう。こんなの、重くて厚くて、輸送手間ばっかりかかる。本屋棚に置いてもらえない。そこで、今回、日本製紙の「オペラクリームHO」を使ってもらうことにした。紙厚0.09mm。これだと背は32mmだ。オペラは、クリーム系でも色がちょっと独特だが、この商品は裏抜けしないのがウリだ。同趣旨のものとしては、王子のOKライトクリームがあるが、オペラの方がさらに軽い。

 今回のものは、文字だけ。その文字も、超定番のモリサワの太ミンA101。シロウトじゃあるまいに、やたら新奇なフォントを使うのは、読みやすさという点からも、デザイナーの越権だと思う。四六版で文庫並みの頁42字18行だから、贅沢な使い方ではある。が、行42字以上詰め込んだり、二段に組んだりしたら、本として読めたものではない。カバーも、四六版や文庫のような小さなもので絵を入れるのは嫌なんだよね。うまく文字だけでまとめられるといいのだけれど。