オリーブの栄光とローマびとペテロ

 先週、2日(月)から5日(木)にかけて、ドイツ司教協議会(ビショッフ・コンファレンツ)がハンブルクで開かれた。話題の中心は、ピウス兄弟会司教の破門を勝手に解いた現教皇の問題だ。ドイツ・カトリックは、新教ルター派東方教会、さらにはユダヤ教とのエキュメニズム(宗教対話)を推進している。それゆえ、それを否定するピウス兄弟会は、ましてホロコースト問題に触れる同会のリチャード・ウィリアムソン司教は、認めがたい。

 ところが、ややこしいことに、先月末、ピウス兄弟会の方がドイツ司教協議会に対話を求めてきた。協議会議長のフライブルク大司教ロベルト・ツォリッチは、これを、ヴァティカンの問題として一蹴。さすが知恵者だ。前議長のマインツ聖座司教枢機卿カール・レーマンとともに、協議会の結束は固い。公会議でもないところで裏取引を持ちかけるやり方自体が不愉快であろう。

 神は人に神の似姿として理性を与えた。兄弟会のように、伝統だ、不合理だから信仰だ、などと言われても、もとより理性的な対話にはなりようがない。だいいち、ムハマッドを借りて神が語ったというコーランならともかく、聖書そのものですらラテン語ではないキリスト教において、神がラテン語典礼を命じた、とか、プロテスタント的だからダメだ、とかいうローマ中心主義の方が、どうやってもムリがある。これでは、根本のところで話にならないのは自明のことだ。そこまで言うなら、聖書どおりのコイネー(古代国際ギリシア語)でやれよ、ということになるだろう。また、教会としての伝統うんぬんに関しても、歴史を越える神の遍在からすれば、教会はその過去の歴史を介してのみイエスにつながるのではなく、過去はもちろん、いまこの現在においても、つねに教会は直接にイエスの前にある、そして、むしろ神が現在の教会をあらしめたもうたことにおいて、神はいまや過去の教会の姿をあえて退けられた、とでもいう方が神学的にも妥当だろう。

 むしろ問題は、ヴァティカンだ。教皇の方がなんらかの正しい対応をしない限り、ヴァティカンとドイツ・カトリックとの関係は、修復不可能なところへ突き進んでいっている。フランスやポーランド、そして、これらの国々を派遣拠点とする世界の修道会系列。ヴァティカン側には、せいぜいイエズス会くらいしか残らないかもしれない。それにしても、カトリックの内部で、この信仰低迷の現代にもなって、またシスマ(分裂)を引き起こすほど不毛なことはない。いや、信仰が低迷しているから、教会が迷走するのかもしれないが。

 十六世紀末の『マラキ書』は、歴代法皇に関する予言偽書としてよく知られる。しかし、偽書とはいえ、あまりによく知られているがゆえに、その後のコンクラーベにおいて影響がなかったとは言えまい。それによれば、先のヨハネ・パウロ二世が「太陽の労働で」、今のベネディクト十六世が「オリーブの栄光」、そして次が「ローマびとペテロ」。問題は、これで予言がおしまいであること。それも、極限の迫害と最後の審判が言及されている。現教皇はもちろん、次の教皇になる可能性のある現枢機卿、その他、カトリック教会関係者で、この予言を知らない人はいないだろう。

 ヴァティカンがこのままこの問題を放置した場合、フランス、ドイツ、ポーランドなどのカトリック教会は、シドニス・システムに基づき、ヴァティカンそのものの存在意義を認めなくなる。南イタリアの教会ですら、ローマよりもフランスとの関係が深いので、ヴァティカンに従うかどうかわからない。実際、歴史上からしても、べつにヴァティカンで教皇が選ばれなければならない理由はない。小アジアからヨーロッパまで布教して歩いた使徒ペトロの継承者という意味で言えば、むしろローマ中心主義を採る狭隘なヴァティカンを切り捨て、ルター派東方教会カルヴァン派聖公会、再洗礼派その他と大合同して、イェルサレムかどこかで新しい意味でのキリスト教の代表者を選出した方がいい、ということになる。

 そうなると、ヴァティカンは、ヴァティカンだけで、古くさい次の教皇を選出しなければならなくなる。まさにローマびとだ。しかし、大合同キリスト教会は、そんな教皇を破門するかもしれない。カトリックにおいて、一見、教皇の下に教会があるように思われるが、しかし、教皇は、しょせん教会に選ばれてこそ教皇になれるのであって、教会に選ばれていない教皇はホンモノの教皇ではありえないからだ。

 予言の奇妙なところは、それが人々によく知られることにより、その予言が実現する方向に物事が動いていってしまう、ということ。よほどのことが無い限り、逆には動かない。初代教皇ペテロ以後、ペテロを名乗った教皇は一人もおらず、次の教皇がみずから予言に従うなら、ペテロ二世を名乗ることになる、とされるが、そんなにバカでもあるまい。しかし、実質的に、ヴァティカンのペテロ二世と、エキュメニズムのペテロ二世の二人の対立教皇が出てくる可能性はゼロではない。