物語工学とニーベルンゲンの歌

 ニーベルンゲン、という名前くらいは聞いたことがあるだろう。音楽好きなら、ワグナーの楽劇で知っているにちがいない。しかし、どういう話か、となると、はなはだ怪しいのではないか。ひどいのになると、おおまじめに、北欧神話だ、などと言うやつまでいる。

 オーストリアから北欧まで知れわたって、さまざまに改変されているが、この話、もとはゲルマン族ブルグンド(ブルゴーニュ)王国の物語だ。ただし、いまのフランスのブルゴーニュではなく、当時はライン河畔のウォルムスに、その宮廷はあった。

 古い形では、この宮廷で2つの事件があったらしい。ひとつは、四三七年の話。王妹は、フン族の王と政略結婚させられた。フン王は、王妹に、兄王をウィーンの東、エッツエルベルクまで呼び寄せさせた。兄王はとらえられ、財宝を要求されたが、これに応じないまま、殺された。王妹は、フン王との間の二人の王子を焼いて晩餐に出し、城に火を放って、みずからも果てた。

 もうひとつは、それから百年後、五四〇年頃の出来事。鍛冶屋の男(もしくは王の部下)が王妹に恋した。兄王は、北欧の王女との自分の結婚を手伝うことを条件にした。男は、兄王の姿で北欧に行き、王女に求愛し、王女を連れ帰った。兄王は王女と婚礼を挙げ、男ももまた王妹と結婚した。ところが、王女は、王妹を、身分の低い夫を持っている、と言って罵った。すると、王妹は、王女に、そういう夫にそそのかされたのはおまえだ、と、秘密を暴露してしまった。王女は、王に王妹の夫を殺させた。

 紆余曲折の後、二人の王妹が同一視され、二つの話の前後が逆転し、夫を殺された王妹がフン王と再婚させられて、兄王に復讐する話になっている。こうして、千二百年ころ、ラインではなくドナウ河畔のパッサウあたりで、『ニーベルンゲンの歌』が確立される。それが、あちこちに広まって、ごちゃごちゃとした外伝や異聞を引き寄せ、それから数百年後に創られたワグナーの物語は、アーサー王伝説だのまで取り込んで、まったくオリジナルなパスティーシュ(ガラクタの寄せ集め)になっている。

 こういう物語の構造を分析したり、その組み合わせや組み換えの変遷を考察するのが、物語工学。ややこしいのは、古い物語より、新しい物語の方が古いエピソードを取り込んでいたりすること。しかし、組み合わせや組み換えにおいては、人物の同一視や、愛憎の一貫性の整理が行われ、ひとつの物語へと収斂していく。もっとも、無理につじつま合わせがなされた物語よりも、古い生の物語の方が、ダイナミックで、情念深かったりするところがおもしろい。