ファスナハトという素人演芸大会

 前にも書いたが、カーニヴァル、と言っても、このあたりのものは、ナポレオン戦争以前のカーニヴァルとはまったく異なる。伝統的なカーニヴァルというのは、冬の終りを告げるもので、キリスト教の復活祭につながる断食前に、残りの冬の備蓄を食べ尽くすバカ騒ぎの祭りだ。それがスペインでは火祭りになり、また、ヴェネツィアの仮面舞踏会になる。

 しかし、ヨーロッパ、とくにスイスやドイツ、オーストリアでは、キリスト教より古い起源を持ち、むしろ日本や中国の節分(鬼やらい)に似ている。聖ニコラオスの日(12月5日)に冬の到来として登場した鬼たちが、カーニヴァルに暴れて、バラの月曜に行進して去っていく。だから、彼らは、恐ろしい仮面をかぶって、沿道の人々にいたずらをする。

 ところが、西ドイツ(ケルン、デッセルドルフ、マインツ、そして、フランクフルトやアウグスブルク)やフランスのアルザスでは、ナポレオン戦争以後、まったく違うカーニヴァル、「ファスナハト」(ファストナハトとも、ファッシンクとも言う)を始めた。その中心になるのが、ナ-ル・ジッツンク(オバカ会議)と呼ばれる素人演芸大会だ。ステージでは、オバカ議長を中心に、次々と街の素人たちが出てきて、玄人はだしの芸を披露する。漫談はもちろん、コント、ダンス、バレエ、手品、なんでもあり。とにかくよく練習してきている。衣装なども本格的だ。フルのブラスバンドがオチを強調し、みんなで笑って歌って、およそ3時間、これがファスナハトの3週間前くらいから、あちこちの街のホールで繰り広げられる。子供の大会もある。バイエルンビアフェストに似ているが、酒は無し。

 この時期ばかりは、床屋が音頭取りになったり、靴屋が喜劇役者になったり、とにかくみんな楽しそうだ。ただし、昔から地元に住んでいる名士が中心で、周辺新興住宅地の人々は入り込みにくい。それでも、あちこちのオバカ団が、1月から団員を新規に募集しているので、ラッパなどができれば、すぐに仲間になることができる。ただし、彼らがこのお祭りにかける気合いは半端ではないので、制服など、かなり物いりになるだろう。

 なんにしても、ニュルンベルクのマイスタージンガ-のように、ドイツの一般市民の演芸志向は根強い。この国では、音楽も、絵画も、ダンスも、ふつうに本業を持つ一般の人々が自分でやって楽しむべきもので、無理やりテレビや新聞雑誌が売り出したヘタなアイドル・タレントなど成り立つ余地はない。