ヨーロッパではインド映画がヒット中!

ヨーロッパは、インド人がいっぱい。いわゆる印僑という人々か。ここ、マインツにも、ターバンを巻いたインド人がやっている変なデパートがある。あちこちにインド人御用達の食料品店もある。あいつら、ウシはもちろん、ドイツが大好きなブタも食べないものな。当然、ウシやブタの油やコンソメを使っているものもダメ。デパート(?)で売っているポテトチップも、健康に優しい100%ヒマワリ油の薄塩味だけだったりして。だから、バーベキュー味なんて論外。

そうでなくても、ボリウッドボンベイ・ハリウッド)の勢いはすごい。とくに、今年、こっちで公開された『オム・シャンティ・オム』は、レコードを含め、大ヒット。30年がかりで作ったという力作は、豪華スター総出演で、ものすごいテンションだ。話はややこしくて、例のごとく生まれ変わったりして、まあ、オムとシャンティのラヴストーリーだ。それに、162分(2時間42分)だから、インド映画にしては短い。見やすい。

インドで当たった『かびくしかびえがむ』(良い日も悪い日も、2001)なんか、210分(3時間半)もある。これもDVDを買ってしまった。『くちくちほたはい』(愛は突然に、1998)とか、日本の古いアイドル映画みたい。もっとすごいのは、インドのSF映画で、『こいみるがや』(だれかを見つけた、2003)。いつものように歌って踊った上に、チンケな着ぐるみの宇宙人が出て来て、こいつまでやっぱり一緒に踊ってしまう。これ、こっちのテレビで、年末の早朝にやっていて、見て驚いた。176分。つまり、約3時間ね。そのうえ、これは、続編『くりっしゅ』もある。176分。これもテレビで見た。いまどき信じられないような御粗末なパソコン(画面が緑色いの)で、未知との遭遇のまねして、おもしろいんだか、ばかばかしいんだか、よくわからないけれど、なんだかすごい。

なんで、インド映画がやたら長いか、というと、映画でも、演劇でも、ダンスでも、エンターテイメントというのは、そこに、愛(シュリンガラ)、笑(ハスィヤ)、哀(カルナ)、憤(ラウドラ)、英(ヴィーラ)、脅(バヤナカ)、悪(ビーバッア)、驚(アドゥブタ)、平(シャンタ)という9つ(ナヴァ)の美(ラサ)がなければならず、これらが人の情(ラティ)、愉(ハーサ)、悲(ソカ)、怒(クロダ)、気(ウツァーハ)、恐(バヤ)、憎(ジュグプサー)、嘆(ヴィスマヤ)の8つの色(バーヴァ)を転生させて魂を浄化させるそうだ。インド・カシミールのシヴァ派の哲学者アビナヴァグプタ(Abhinavagupta、西暦1000年頃)が言ったとかいうことになっていて、いまでもインドの美学やエンターテイメントの基本理論となっている。

エンターテイメントによるカタルシス(魂の浄化)についてはアリストテレスも語っているが、ラカンの鏡像理論なんかより、アビナヴァグプタの方が、なんとなく実感できるかな。実際、よくもまあこれだけのものを映画に盛り込んでいると思うが、個々のダンスシーンも、じつはこの理論で振り付けられている。ダンスの途中で、やたら度派手に色の変わる衣装も、この順番だ。こういう仕掛けがわかると、さらにおもしろいぞ。

つまり、あの長い映画は、心のドラム式回転洗濯機なわけだ。ちょっと回したくらいでは日頃の汚れが落ちないが、めくるめくダンスとともにぐるぐると3時間も回せば、余計なことは、さっぱり忘れて、すっかりきれいに真っ白なるというもの。実際、あんなの見ていると、なんにも考えられなくなる。映画が終わった後まで、頭の中は、どんがちゃか、どんがちゃか、ずんこ、ずんこ。でも、頭の中だけでなく、手足まで踊っているようだと、かなり重症だな。でも、けっこう心地よいかも。