キャンプな『バットマン』と桑田次郎のアメリカ復刻版

というわけで、一路、アメリカへ。クリスマス・テロの警戒で、やたらチェックが厳しい。

が、街は、やはりここもラスト・ミニッツ・パニッカーで、大にぎわい。そのうえ、感謝祭より後は、もう冬物一掃セールだからね。やはり製造年2008の後に2009が出てきてしまったら、もうそっちを買ってしまうものな。売るなら今のうちだ。

ちょっと書店へ。ビデオは長いクリスマス休みにむけて、やたらテレビのボックスものの出がいいようす。あいかわらずERだのSATCだのが人気。マンガ関連では、日本のものも好調。ドイツと違うのは、ドイツが、トウキョウポップのせいなのか、安っぽくて下手っぴな今どきの少女マンガ系が多いのに対し、アメリカは、フランスのバンドデシネ風のグラフィック・ノヴェルっぽいのが当たっているらしい。それだけに、マンガのくせに本の作りが豪華で、紙質もよく、やたら高い。

目についたのは、『バットマン』。それも、なんと日本の桑田二郎桑田次郎)のキング連載の豪華復刻版。なんだ、これ。表紙にドリフターズとか書いてあるし。編集が下手だから左右ページが反転して、ザラ紙の染みまで写真で取り込んでるし。古文書のファクシミリ版じゃないんだから、フォトショップかけて、もとの白黒に戻してクリアに刷ればいいのに。日本の半紙B5まがいの疑似等寸サイズだから、ミミの広告とか切れちゃってるし。製本より製版にカネをかけろよ、と思う。

で、なんでこんなのが出てるのか、というと、もともとのアメリカのオリジナルのコミック版の『バットマン』にちょっとした困った事情があるからだ。いま映画で『ダークナイト』とかやっているが、あれは、オリジナルの『バットマン』とはあまりに似ていない。デザインがどうこうではなく、ノリが違うのだ。古いテレビ版の方がオリジナルのコミック版に近い。

バットマン』は、「アクションコミック」誌のスーパーマンに対抗して「デテクティヴ・コミック(DC)」誌で1939年に連載が始まったものの、しょせんずっと本家スーパーマンの亜流でしかなかった。しかし、DC誌はほかに頼る主力作品もなく、ずるずると連載された。が、とうとう戦後の1964年には打ち切りが決まった。そこでヤケになってデザインも設定も、そして、とくに敵役たちを、コンテンポラリー・ポップなものに一新してしまった。ようするに、当時流行の原色サイケを取り入れた、ということだ。

そして、1966-68のテレビ版で最盛期を迎える。このテレビ版が、コミック版以上にポップで、画面に擬音がテロップで表示されたりする。ビートルズの『ヤァ!ヤァ!ヤァ!』や『イエロー・サブマリン』に近いノリ。このオバカなテレビ版『バットマン』(ABC系)と対抗して、NBC系ではビートルズのパロディのオバカバンドショーの『モンキーズ』が企画されたくらい。そして、テレビ版がまた逆にコミック版に影響して、バットマンとロビンは、ほとんどボケとツッコミのかけあいとなり、敵役との戦いさえも、パンツのゴムが伸びてユルユルってな感じとなる。(個人的には、こういうオバカ路線が大好きだ。)つまり、それまでのクソまじめなヒーローもののすべてをごたまぜにしてパロディ化してしまったのであり、ゾンタークの言うキャンプの典型として、『バットマン』は、コミック版も、テレビ版も、爆発的にアメリカでは受けた。

ところで、そのころ、日本の桑田次郎(いま、二郎)は、SF作家の平井和正とともにマンガとアニメで『エイトマン』を大ヒットさせたものの、連載をかかえすぎ、自殺を図って拳銃を買い集めて逮捕された。「キング」編集部は、その桑田の復帰のために、テレビ版『バットマン』の日本での放送に連動して、独自ストーリーでの連載を依頼する。しかし、ベトナム戦争とともに黄金の60年代を迎えたアメリカと違って、日本は、朝鮮戦争による戦後景気とオリンピック景気が過ぎ去った後の反動で、トヨタも傾くほどの大不況期。「マガジン」誌ではちばてつやの『ハリスの旋風』に加え、梶原一騎川崎のぼるの『巨人の星』がじわじわと人気を得、むしろ貧乏・ド根性・クソまじめの新劇的体育会路線が主流となる。テレビでも、『ウルトラマン』のクソまじめ路線が一人勝ちして、オバカなテレビ版『バットマン』はぱっとしない。桑田の『バットマン』は、クソまじめ路線を取り込んだが、とにかく彼の絵は、泥臭いちばてつや川崎のぼるなどに較べると、イローニッシュでスタイリッシュすぎた。

さて、いま、もはやスーパーマンがダメになると、バットマンをまともなヒーロー路線に戻そうということで、かのオバカ路線はどこかへ吹き飛び、バットマンはスタイリッシュなグラフィック・ノヴェルと化している。オーディナリーピープルの優等生ジャーナリストのスーパーマンより、セレブでダークな感じも、今のような暗い時代に受けがよいらしい。

バットマンの歴史において、いまや、あの最盛期のキャンプでポップな60年代は汚点でしかない。で、世界を見回してみたら、ちょうどその時代に、日本で桑田が、まさに彼らの期待するイローニッシュでスタイリッシュな『バットマン』を連載していた。じゃあ、そっちを復刻して、キャンプな正史と入れ換えてしまおう、というわけだ。

それにしても今の不景気なアメリカが、余裕を失って、日本の60年代のようなクソまじめ路線になると、ちょっと恐い。カネはなくても、この国は、体力や爆弾の方はありあまっているからなぁ。まあ、1ドル90円を割り込んだのは、こうしてアメリカで買い物をするのにはありがたいが。