第五の季節ファストナハト宣言!

 今日は、聖マルティンの日。マインツの大聖堂も、ほんとうは聖マルティン大聖堂と言う。しかし、この聖マルティン、マントの半切れを乞食にやった、というだけで、有名なわりに大したことはしていない。はっきり言ってしまえば、フランスのトゥールズの大司教、というだけ。とはいえ、夕方にランタンを持って子供たちが練り歩き、塩プレツェルをもらい、ガチョウを食べる、ということになっている。

 が、マインツは、その大聖堂にもかかわらず、そんなことは知ったこっちゃない。それより今日は大変な日なのだ。なにしろ、11月11日。1が並んでいる。その11時11分ともなれば、オバカの血が騒ぐ。なにしろ、オバカさんは、8でも7でも数字が並んでいるのが大好きだから。広場には、トンチンカンな格好をして、オバカ数千人が集まってくる。

 というわけで、今日からオバカさんの季節だ。他の街は知らないが、マインツでは、春、夏、秋、ちょっとの冬、そして第五の季節、オバカ(ナール)というのがある。今日から2月のファストナハト(カーニバル)まで4ヶ月、オバカさんが支配する。11時11分に、広場で、オバカ憲法発布。

 壇上(ビュットと呼ばれる樽)からオバカ憲法が読み上げられる。第1条、オバカの尊厳は不可侵だ(手のつけようがない)。第2条、すべてのオバカは平等だ、たとえジョークがつまらないやつでも。第3条、すべてのオバカは自由だ、ただしオバカの自由は人のオバカの始まるところで終わる。第4条、ともにオバカを喜べ、たとえシラフでオバカな相手とであっても、とりあえず乾杯! 以下略。最後は、ヘラウ三唱。へらう! へらう! へらう!

 哲学だの、エコロジーだの、ドイツをくそまじめな国のように日本に紹介した連中は、いったいどういうバカたちなんだ? あいつら、どこ見て、ドイツ文化を騙ってるんだろう。ベルリンなんて、いまだって、あんな僻地、ドイツじゃないだろ。ババリアなんか、本人たちもドイツだと思っていないし。まあ、マインツも、ドイツじゃないらしいが。とにかく、プロシアのバカどものような、くそまじめなことは、大嫌い、という、ポジティヴなオバカ気質が、ライン人というもの。

 じつは、このファストナハト、べつに歴史のある伝統行事でもなんでもない。とにかく盛り上がっているのが、ケルンとマインツ。それも、じつは、この二つのライン都市が、1830年代末に共謀して始めたバカ騒ぎだ。

 これがマインツのオバカ旗。オバカなかっこうも、基本はこの4色。マフラーだけでもいい。しかし、この旗、じつに巧妙だ。くそまじめなバカどもにはわからなかったのだろうが、じつはフランスの共和国旗にラインゴルト(ライン河の黄金の象徴)を付け加えたものだ。逆に言うと、その後のドイツ国旗から、プロシア・チュ-トン騎士団旗の鉄血を象徴する黒と赤を除いたもの。

 もともとケルンやマインツは、大司教領であり、門前市の自由経済で栄えていた。ところが、北から野蛮なプロシアがやってきて、中間のコブレンツに要塞を築き、豊かなケルンやマインツを狙った。マインツ大司教の地位がプロシアに不正にカネで買われるなどというスキャンダルも起こっていた。だから、フランス革命に際しては、マインツフランス共和国加盟を宣言した。しかし、プロシアにつぶされ、ナポレオンが取り返し、再びプロシアに征服された。

 1830年、フランスでは、『レ・ミゼラブル』でもよく知られている七月革命が起こったが、もはやケルンやマインツに、プロシアに逆らう力はなかった。そこで始めたのが、このオバカの祭りだ。オバカ憲法も、自由、平等、友愛、というフランス革命の基本理念が隠し込まれている。そもそも11月11日11時11分、というのも、たんなる数字遊びではない。ドイツ語で11をELFと言うが、これは、まさにエガリテ(平等)、リベルテ(自由)、フラテルニテ(友愛)の頭文字の象徴。ケルンでも、マインツでも、このファストナハトに向けて、いくつものオバカ協会があるが、じつはこれも、当初はフランス革命時のフリーメイソンリーの組織を継承していた。

 昨今の自分の関心との関係で言えば、マインツというメディア都市は、ナチスの敗戦よりはるかに早く、この1830年代にポストモダンをみずから選び取った。オバカというのは、まずアウト・オブ・モードだ。フランス革命軍の格好をしている人がいるかと思えば、ヴェネチアルネッサンスだったり、中世の甲冑騎士だったり、カリブの海賊だったり、ネズミ女だったり。スーツのボタンでさえも、ずらしてかけるのが、オバカというもの。かぶりものも必携。ナール帽やクラウン帽のほか、トナカイの角なんていうのもいい。そのうえ、わけのわからにドでかい勲章を、張り切れないほどいっぱい胸につける。そして、首からは、このオバカ人形。へへへ、どうだい、いかしているかい。これ、夜道で赤く点滅するんだぜ。チンケなくせに、4オイロもするんだ。最低だろ。

 それにしても、ヘラウ三唱で、右手を高く上げて、みんなでへらう!へらう!へらう!って叫ぶのにはかなり驚いた。それ、戦前のナチス式敬礼だから、ふつうにそこらやったら、かなり怒られてしまう。でも、そんなの、知ったこっちゃない。だって、みんなオバカなんだもん。