最初の講義

 さて、講義だ。100人ほど入る講堂で、ほぼ満席。まあ、みんな来るのは、ドイツでも学期始めだけだそうだが。というのも、ドイツの大学は、基本的に授業料がタダなので、とりあえず登録しておこう、という学生が多い。それも、昔のように、何年か働いて、自分の貯金で最短に学位をめざす、などというのではなく、ギムナジウムを出てすぐ親の仕送りで大学生をしているだけ、というのも多い。

 今日は自己紹介と講義案内、その他。もちろんドイツ語で話すわけで、なかなか大変だ。まあ、見ればわかる、というような資料も、パワーポイントにいろいろ持ってきているので、なんとかなる。

 先生方はまだいいのだが、一般のドイツ人や学生となると、そもそも日本文化に対する誤解が大きい。テレビや映画に出てくる日本像を見ると、数十年前のままだ。つまり、メガネをかけて、カメラを持って、やたらお辞儀して、奥さんは芸者で、子供はユカタ、障子に畳の部屋で、タテヒザでスシを食べており、背後には仏像が置いてある、というような。

 元凶はわかっている。こっちでウソばかりついているドイツ在住の日本人が少なくないからだ。もちろんコメディアンやシャレでやるのはわかる。だが、あんたら、あまりにひどくないか。連中の罪は、逆にも言える。ドイツは環境問題先進国だ、とか、ドイツは子供を大人として扱います、とか、日本で本を出したり、新聞に記事を書いたりしているけれど、それ、全部、ウソだろ。こっちは、ゴミの分別もいいかげんだし、週末の朝は、そこら中の道路はゴミだらけ。子供のドロップアウトは、日本の比ではなく、シツケに悩んでいる。世界中、どこの国も抱えている問題は同じだ。

 しかし、困ったことに、ドイツ人で、そういうドイツ在住の日本人のウソを真に受けてさらに広めているのがいる。たとえば、剣道を習っているだけのドイツ人のおじさんが、テレビで武士道を語って、真剣を振り回して、めーん!とか怒鳴ってみせたり。(言うまでもないが、剣道は、明治末期に、柔道よりもさらに後にできた新しい競技で、竹刀と真剣とでは、使い方がまったく異なる。真剣を頭蓋骨に打ちつけ、刃こぼれさせるバカな侍などいない。)スーパーなどでも、蛍光オレンジや蛍光ピンク、蛍光グリーンの仏像の頭を売っていて、それを前にメディテーションする座禅会が各地にあったり。

 日本映画にしても、おかしい。日本でこんなのぜんぜん知らないし、金払ってまで見ないだろ、とかいうのばかりが紹介されていて、『踊る大捜査線』とか『リング』とかのような、日本なら誰でもとりあえずは知っているようなのが来ていない。マンガやアニメにしても変だ。ハングルの逆開きだったり、フランス人かドイツ人によるトレースパクリの寄せ集めだったり、それもヤオイ風の少女マンガがやたら多い。

 とか言いつつ、自分も、ドイツ語を多く話すのが面倒なので、日本人の男はみな寡黙だ、昔のスパルタ人と同じだ、べらべらしゃべる軽い男は、よく吠える弱い犬コロのようだ、とか学生たちに日本文化を説明してたりして。