作字の基本

 活字にしても、フォントにしても、既存のセットにない文字というものもある。そんなもの、文字ではない、というのは、JISや文科省の思い上がりだ。JISや文科省が手抜きなだけだ。いや、康煕字典に基づくUTFならなんでもあるはずだ、というのも、まだ考えが甘い。字典に関係なく、人は言葉を語り、文字を書く。だから、古典の中には、見たこともないような、とんでもない文字がいっぱいある。もちろん単なる異字の場合もあるが、構造からして明確に別字なら、作字しなければなるまい。

 きちんとした本なら、新たに活字を起こしたものだが、昔の手抜きで、そこらの写植活字の偏と旁を適当に半分に縮めて、作字した、などというものが横行した。××文庫などが、そうだ。当然、線が細くつぶれる。字面が汚い。バランスが悪い。

 作字の要は、作字であることに気づかれない、他と揃った品位のものにすることだ。読者の妨げになって平気な文字を使って本を作るやつは、神経が信じられない。

 で、実際の作り方。今日、イラストレーターを使うのが一般的だろう。素から作る強者もいるだろうが、フォントとしての特徴を見るためにも、たたき台となる文字があった方がよい。AtoKかなにかで検索して、同じ旁、同じ偏の文字をいくつか選び出す。

 このとき、筆字系(勘亭、隷書、教科書など)では、偏や旁の大きさだけでなく、線の密度にも注目すべきだ。たとえば、「一」という文字の線の太さは、「二」や「三」より太い。「明」と「朝」とは、「明」の方が太い。大きさが合わなくても、まずは、同じ密度の文字を選択し、その必要な偏や旁のみを残す。

 さて、イラストレーターで、偏や旁の文字外周側は動かしてはならない。投げ輪で、文字の内側を広い、→キーで、ポイントを左右、または上下に移動し、線を短くして、偏と旁のバランスを調整する。このとき、ポイントを移動すると、曲線部の曲率が変わることがあるので、これも再調整する。

 基本的に、文字の線は、偏と旁で重なってはならない。だが、偏や旁は詰めすぎず、最後は重なる先端のみを詰める。このとき、この詰めた部分の、線の太さも、細くすること。

 偏や旁の合成では作字できない場合、少なくとも同じ構造を持つ文字を探してくる。レイヤー上に、同じくらいの線密度の文字もいくつか拾い出し、その参照文字の線の太さまで、部品文字の線を調整して組み上げていく。このとき、一つの文字としての象(○、△、□、◇、等々)のまとまりが明確になるように、仕上げる。

 極端なことを言えば、本来、書道のように、上に来る文字と下に来る文字との並びでも、文字は形を変えるべきものであって、どこでも同一の活字を使うこと自体に無理はあるのだが、作字したものを、他のいくつかの特徴的な文字と並べてみて、違和感がなければできあがり。このとき、縦書きなら、行を通じてセンターが通り抜けている感じがしなければならない。横書きなら、文字の黒さの重心が行で同じ高さに揃っていなければならない。

 ちかごろ、学校を出たばかりとか、手抜きデザイン事務所で雑な仕事を覚えてしまったとかいうデザイナーが少なくないが、プロなら、きちんとこういう基本を短時間でこなせるようになっておこう。急ぎの仕事で、作字の必要が出てくると、かなりしんどいぞ。