電子キットと北川重男先生

 カード屋から冊子が送られてきた。いつも縁のないものばかりだが、今回は妙な冊子だ。ホビー系の高額商品ばかりが並んでいる。子供のオモチャではない。ドイツ製のスターリングエンジンとか、バキュームエンジンとか、垂涎ものだ。どうやら出どころは、学研のものらしい。

 その中に、マイキット150が出ていた。なつかしい。むかし、さんざん遊んだ。レゴの次はこれだった。その後はTK80コンパチキット、そしてPC8000だった。そのきっかけになったのが、このマイキットだ。これは、電子ブロックより以前のスタイルで、いかにも当時の実験器具風の木の箱の中に、抵抗やコンデンサが系列化されており、ハンダで固められただけのリード線をスプリング接点に挟み込んで回路を作る。ダイオードが偉そうにまん中にあった。各種ラジオはもちろん、電子オルガンなんていう回路もお気に入りで、説明図を見なくても配線できるほど気に入っていた。

 その写真を眺めていて、思い出した。成城大学の北川重男先生だ。友人で成城に上がって北川先生のゼミに入ったのが何人かいたので、その御縁でとてもお世話になった。御専門はシェイクスピアだ。私ももともと学生ながらもシェイクスピアは原文で読み込んでおり、東大で中野里皓史先生の『マクベス』のゼミに出ていたこともあって、お話しを伺いにたびたび御自宅までおじゃました。山歩きや演劇、小説、そして、美術や音楽と多趣味でいらっしゃり、清里のコンサートホール(?)付きの別荘にもお伺いしたこともあった。

 北川先生の御自慢の宝は、真空管アンプだった。暖まるまで30分はかかる。スピーカーは電話ボックスサイズの巨大なものが部屋の両脇にある。レコードは、CDが切り捨てる音も物理的に録音されている、問題は機械の再生能力だ、とおっしゃって、そのセットで、カザルスの演奏を聴かせてくださった。その音像は鮮やかで、まさに目の前に、息をして弓を飛ばすカザルスが座っているかのように立体的によみがえってきた。

 子供は無く、犬をかわいがっていらっしゃった。ダリの本を書かれたかと思うと、詩をたしなんでいらっしゃった。大人にはなりたくないんだ、とおっしゃって、真空管アンプのオレンジ色のあかりに顔を近づけ、それをずっと眺めていらっしゃった。そして、2005年に亡くなられた。