タハレス (Thales c624/40-546 BC )

 タハレスは、「ギリシアの七賢人」のひとりとして名声をはせていた。たとえば、彼は清貧な暮らしをしていたが、このために、哲学は現実には役たたずだと非難されたので、冬の間に突然、あり金をはたいて町中のオリーブしぼり器すべてを借りきった。ところが、まさにその年はオリーブが豊作で、彼は独占したオリーブしぼり器を思いのままの値で貸出し、多額の金を作ってみせた。また、日食を予言したり、幾何学的測量方法を発明したりしている。

 しかし、彼が哲学の祖とされるのは、このような現実的、実用的、表面的な行いによるのではなく、そのような驚くべき発見を可能にする、世界構造そのものへの探求の態度にある。つまり、彼の目的は、知恵を手段として、金を儲けてぜいたくな暮らしをすることではなく、また、ただ多くを知って、それに甘んじているだけでもなく、知恵を手段とし、さらなる知恵を求めていくことにある。身近な知恵から、より深遠な知恵へと問うこの態度が、単なる〈知者〉と〈知を愛する者〉とを分ける指標になる。そして、まさに彼は、さまざまな身近な物事の観察から、その根本を探求し、それが〈水〉ではないか、という大きな仮説をうち立てたのである。